WORKS / PORTRAIT PHOTOGRAPHY
引退した客船「にっぽん丸」と
加賀友禅大使。
金沢港に残る最後の記録
石川県金沢市、金沢港クルーズターミナル。この日の撮影は、加賀友禅検定教本「加賀友禅のきほん」にも関わるお仕事だった。ターミナル内の一室にスタジオ機材を持ち込み、加賀友禅大使の皆様をお一人おひとり撮影する。その撮影を終えたのち、場所を屋外へ移し、停泊していた大型客船「にっぽん丸」を背景に、皆様揃っての一枚を撮ることになった。
この撮影場所と許可は、加賀友禅会館がクルーズターミナル側からきちんと取得してくださっていたもの。だからこそ、あの船の前で、堂々と、安全に撮影することができた。

PORTRAIT PHOTOGRAPHY
金沢港クルーズターミナルでの撮影
屋内での個人撮影を終えたあと、舞台は金沢港の屋外へ移った。被写体は加賀友禅をまとった大使の皆様。そして、その背後に停泊していたのが客船「にっぽん丸」だった。
BACKGROUND
客船「にっぽん丸」、35年の航海に幕
その日、背景として立っていた「にっぽん丸」は、1990年に就航し、35年にわたって日本のクルーズ文化を牽引してきた船だ。国内外400以上の港をめぐり、2026年5月10日、横浜港への帰港をもって、その航海に幕を下ろした。
金沢港にも幾度となく寄港してきたこの船が、もうこの海に姿を見せることはない。
ON LOCATION
風と強い順光の中で
写真だけを見ると、秋晴れの心地よい一日、穏やかな一枚に見えるかもしれない。けれど実際は、港特有の強い風との勝負だった。せっかく美しく整えていただいた着物の裾が、風でめくれてしまう。柄がきれいに写らない。かといって撮影時間は限られている――焦りながら、風がふっと収まる一瞬を待った。
しかも、太陽と大使の皆様、そしてにっぽん丸が一直線に並ぶ強い順光。皆様は眩しさに目を開けているだけでも大変だったはずだ。シャッターを切る瞬間に私が掛け声をかけたのは、まばたきを防ぐため。メディア対応に慣れていらっしゃる大使の皆様でさえ、あの日の光の強さには相当苦労されたと思う。
風を読み、光と競い、限られた時間の中で条件が揃う一瞬を掴む。屋外での集合写真には、こうしたイレギュラーがつきものだ。けれど、それを乗り越えてシャッターを切りきった瞬間こそが、この仕事の醍醐味でもある。
PHOTOGRAPHER'S DECISION
一人ひとりの表情と、一瞬を合わせる
こうした集合写真の現場は、これまでも学校の入卒記念、役場の式典、家族写真、各種イベントなど、数多くの現場で積んできた。一人ひとりの表情とタイミングを合わせる感覚は、そうした積み重ねの上に成り立っている。だからこそ、あの強風と強い順光の中でも、落ち着いてシャッターチャンスを待つことができた。
PRESERVING THE MOMENT
なぜこの一枚が「二度と撮れない」のか
にっぽん丸、加賀友禅大使、金沢港クルーズターミナル。この三つが同じ一枚に収まる機会は、もう二度と訪れない。当時はただの記録写真のつもりで切ったシャッターが、時間が経つことで、かけがえのない一枚に変わっていた。
AFTERWORD
撮影者として記録に残す理由
あなたが何気なく残してきた写真の中にも、もしかしたら、同じように「もう二度と撮れない」瞬間が写っているのではないだろうか。